色々な教科を取ったけれど、どれもこれも依存症の根本的原因を追究した理論に出会うことができないまま、月日が流れていきました。
そんな半ば諦めかけていたときに、心理学の歴史という必修教科を取ることになったのです。
歴史が苦手な私は、この教科を一番後回しにしていました。ただ、その次のレベルの教科を取るためには、心理学の歴史を取る必要があったんですね。
そこで、出会ったのが Dr.Bruce Alexander 教授。笑顔がやさしい気さくな人です。
ただし、授業内容といったら、それまで自分が取った講義のトップ3に入るほどの難しさでした。
まず、哲学。ただ覚えて答えられるテストなら何とかなるのですが、このクラスはとにかく、学生に考えさせます。考えすぎて、頭が痛くなるなんて経験したのはこのクラスだけでした。論文も先生を説得しなければいけないんです。厳しい突っ込みをしてくるし、は~って思うような質問だったり、カナダ人のクラスメイトもガンガン悪い成績をとっている中、もう必死でしたね。
そんな大変な授業ではあったものの、数週間が過ぎたくらいから、どうやらこの授業に慣れてきたようです。実は、私自身も考える事がとても好きなのに気がつきました。そうです。ずっと依存症の根本的原因を探していたのですから!
授業をこなしていくにつれ、どうして哲学や社会的な環境の歴史をその授業で学んでいるのか分かってきました。教科書にしても、読めば読むほど納得できます。教授も助教授も、本当はものすごい大事なことを言っているということが、なんとなくながら見えてきました。
ある日の授業中、アレキサンダー教授が「実は僕は長年依存症の研究をしているんですよ。」と発言。
化学者でもあり、経済学者でもあり、そして心理学者でもある、大学でも有数の有名な教授が、実は依存症の研究をしていたなんて。まさに感動!まさに運命的!な出会いだと感じた瞬間です。
でも、私のようなただの学生が、この教授に掛け合っても相手にしてもらえるか分かりません。不安もいっぱいあったのですが、まずは話をしてみようと決めて、教授のオフィスに行きました。思ったより気さくな人で、まず、どの理論を追求しているの質問されました。
- 依存症の研究を自分なりにやってきたが、いまいちピンとした理論に出会えないこと - 日本では今、この依存症が大問題になっていること - 自分としては、精神医学会における対応を軸に考えていること
これらの考えを伝えると、「違う教授と話しをした方が良いかも知れないね。」と言われてしまい、あ、やっぱり私みたいな学生は相手にしてもらえないのかな? と思ったのですが、別れ際にひとつの文献を渡されました。
「これをよく読んで興味を持ったら、もう一度、僕のところにおいで。」と言ってくださいました。その後、他の教授に会う手配もしていただいたり、ずいぶん親切に対応していただいたことを覚えています。
手渡された文献の内容は、
依存症の根本的原因は、その当人というより、その人間がいきている社会環境、価値観、社会システムに原因がある。特に歴史的に考えると、資本主義や競争社会では、人々の孤立を招き、結果的に依存症というライフスタイルを生み出しているのである。
というものでした。
簡単に要約したものですが、それは100ページぐらいにわたるものでした。その立証の仕方はすごいパワフルなもので、つっこみようがないものでした。こういった考え方ができる教授・思想家に出会うことができただけでも、サイモンフレーザーに来て良かったと思います。